真夜中の12時。

長くて忙しい1日が終わり、僕はゼロの仮面を外しソファーに座る。

少し休んだら明日の予定のチェックに、それから…

やるべき事を頭の中で並べては、君だったら苦労せずにきっちりと計画を立て、その通りにこなして行くのだろうと思ったが、

まだまだやるべき事は山積みで、君を想ってる暇は無く、だから頭の中の君を追い払いたくて、僕は軽く頭を左右に振った。

はぁ…

出るのは溜め息ぐらいだな…

『コンコン』

溜め息を吐いた瞬間、数回リズム良く扉が叩かれる。

こんな遅くに?

不信感を抱きながら、僕は仮面をつけ直すと扉の近くまで移動した。

「誰だ?」

「俺だ。開けてくれないか?」

そんな…

そんな筈はある訳が無い…

問い、そして返ってきた声は信じられないがルルーシュそのものだ。

誰かの声ではなく、間違いなくルルーシュの声…

でもルルーシュは僕がこの手で殺した筈だ…

「早く開けてくれ、スザク」

「な…何を言っているっ!わ、私はっ!」

ルルーシュに教わった、ルルーシュの、否、ゼロの口調を真似て答えるが、ドア越しの声はそれを制止した。

「周りには誰も居ないし、今は『ゼロ』の真似をしなくて良いんだぞ」

苦笑するような笑い声。

確かにそれは、ルルーシュの笑い方だ。

だから僕は思い切って扉を開けた。

「本当に…ルルーシュだ…」

「ただいま、スザク」

まるで旅行から帰ってきたかのように、脇に少し大きめのカバンを従えて、以前と変わらない綺麗な笑みを浮かべたルルーシュが、そこには居た。

呆然としてしまう僕を余所に、ルルーシュは部屋に入り、勝手に扉を閉め、鞄も部屋の隅に置いている。

「どうして君が?」

「さあな。そうだな…らしくない言葉で言うなら『神様の贈り物』とでも言うのかもな。5日間だけ、こっちの世界で暮らせるらしいぞ」

非現実すぎて思考が付いていけないが、どうやら5日間だけ君と一緒に居られるらしい…

でも…

「何で僕なの?君の事だからナナリーに会いたいんじゃないの?それにわざわざ自分を殺した人間に会いたいなんて可笑しいよ」

そう、僕は君を殺した。

君の終幕は、二人で決めた事だけど、でも僕にとっては罪悪感が押し寄せる…

「ナナリーは、会ったら俺もナナリーも別れるのが辛くなる…ナナリーには早く俺の事が薄らいで欲しいから会いたくないんだ…」

「じゃあ僕とは別れるのに寂しくないし、忘れさせてくれないんだ…?」

やっぱり君は僕を憎んでいるのか?

僕が君を許せなかった様に、君も僕を許せなかった?

「誤解するな。お前は俺を絶対忘れない。否、忘れさせてやらない。だからこそ、俺をお前に殺してもらったんだ。

お前にだけは、俺を忘れて欲しくない…それに、ほら……最後ぐらい…甘えさせろ…」

これがあの玉座で脚を組んで堂々と佇んで居た人間かと疑わしいぐらい、頬をほんのり紅色に染めて、

伏し目がちにしてしまったルルーシュは、まるで乙女の様な雰囲気が漂っている。

「最期は君のワガママに付き合ってあげたつもりだけど?」

呆然としていても始まらないから、僕はルルーシュの隣に座る。

昔はよくこうして座ったなぁ。

互いが互いにもたれて寝たり、肩を並べて勉強したり…

勉強は主に君は先生の役割だったけど。

「あれとこれとはワガママのタイプが違うだろ?それにあれはワガママじゃない」

「そうかな?あんまり変わらないと思うけど?」

流石に素晴らしい演出と計算に満ちた、君の最期に相応しい終幕だったよ。

僕は芸術とかあまり詳しくは無いけれど、最高の仕上がりだったに違いない。

「今世界はどうなってるんだ?」

「平和だよ。戦争に向いていた政治家の目が覚めてやっと貧困や世界平和に向かって進み始めたし。

そう言えば、シュナイゼル様を殺さなかったのは政治を巧く動かせる人物を残しておきたかったからかい?」

「あぁ、良く分かったな。あれでも奴は政治を転がすのは上手いんだ。善良そうな顔で何を腹で考えてるか相手に分からせないからかもな」

そう言いながらルルーシュは脚をソファーの上に乗せ、僕の肩に背中が密着するようにもたれ掛かる。

「皆はどうしてる?」

「ナナリーは慣れない仕事に一生懸命頑張ってるから民衆からもその姿が可愛らしいって愛されてるよ」

「流石俺の妹だな」

君だって、本当は悪なんかじゃないって真実を民衆が知ったらかなり株が上がると思うけどね。

でもナナリーの話題になると少しルルーシュの口元が柔らかく緩むのを見てると、今は余計な話はしなくて良いやと思ってしまう。

「お前は?スザクは、辛くないか?『ゼロ』を押し付けてしまって済まなかったな…」

「ううん、別に辛くないし大丈夫だよ」

昔の君のが辛かっただろうから…

世界に反逆して、民衆から持て囃されても孤独だった君の辛さを、少しでも味わって分かれば良いと思っているから…

「あ、でも何人かにはなんと無くバレてるみたいだね、ゼロの中身が僕だって事に」

皇神楽耶は人が居ない時に『くるるぎさぁん?』をしてくるし、ジノなんか普通に手紙が来てしまう。

『枢木卿、今度お忍びで遊ぼうぜ』的なノリの手紙が…

無視をしているが、確信してるから送ってくるんだろう。

そんな世間話をしていると、時間は刻々と過ぎてゆき、いつの間にか時計の針は午前3時を示していた。

隣で船を漕いでいたルルーシュは、完全に眠りの国へと旅立ってしまった様だ。

幽霊(?)でも眠たくなるんだね。

こんな所で寝たら風邪を引きかねない。

そう思うと僕はルルーシュを横抱きにし、ベッドへと運ぶ。

最後のルルーシュを運んだのは冷たくなった血だらけの遺体だった…

でも今は綺麗な身体と、ほんのり感じる体温がある。

それが少し嬉しくて、僕はルルーシュの唇にキスをした…

おやすみなさい、ルルーシュ。

良い夢を…

=つづく=





**あとがき**
瑠依は『今会いに●きます』とか『よみ●えり』とか、読んだ事もドラマを見たことも無いですが、ちょっとやってみたくなってやりました。
まだ少し続きますが、お付き合いいただけると嬉しいです。
08.11.09